今年も日本が誇る神事「どんど焼き」が訪れた。
どんど焼きアワード2020に選ばれてから5年。
時が経つのは早い。
僕は正装のワークマンのダウンに袖を通して外に出た。
「南東の風か。」
僕は静かに呟き、車に乗り込みキーを回した。
会場に着くと、例年以上に混み合っていた。
列に並び、僕はお守りをやぐらの火に投げ入れる角度を目を瞑りながらシミュレーションしていた。
今日はいつにも増して火の勢いが強い。
一番前の方まで来ると、傍にカメラマンが来ていた。
受付の人に「あれ、今日はキャメラ入ってるんだ」と聞くと、「そうなんですよ。今日はどんど焼き特集を組まれているそうなんで。全国区の生放送みたいですよ!」
と言われた。
そうか。
僕のどんど焼きは全国区にまで広まったか。
僕が投げる番になり、キャメラがこちらの方を向いた。
「全国のみんな、僕の美しい動きを見て勉強してくれ。そしてその芸術的な所作を子や孫に!」
と呟きながら、完璧な角度でお守りを火に投げ込んだ。
いつもより美しいフォームで投げ入れられた気がした。
「決まった…」と思い、ファンサービスのためにキャメラを見ると、僕ではなくて何故か僕の足元を映していた。
すると1匹のワンちゃんが走り抜けていった。
ワンちゃんはお守りを咥えており、なんとやぐらの火の中にお守りを投げ込んだではないか。
近くにいたリポーターの女性が「見ましたか!?天才ポメラニアンのあいちゃんがやぐらにお守りを投げ入れました!」とカメラに向かって言った。
そう、今回は僕ではなく天才ポメラニアンあいちゃんの特集だったのだ。
せめて僕も映ろうとあいちゃんを撫でようとすると、「すみません、生放送中ですので映らないで下さい」とスタッフに静止された。
いつの間にか風は止んでいた。